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第1回 北海道スタートアップ オンラインセミナーレポート

第1回 北海道スタートアップ オンラインセミナーレポート

経済産業省北海道経済産業局が中心となり、STARTUP CITY SAPPOROも参画しているプロジェクト『J-Startup HOKKAIDO』。公的機関と民間企業が連携して集中支援を提供することで、スタートアップ企業が飛躍的な成長を遂げられるようにすることを目的としています。今回、J-Startup HOKKAIDOでは、地域に根差し、グローバルな活躍を目指す有望スタートアップ企業22社が選定されました。

J-Startup HOKKAIDOのプログラムの一つとして、全3回のオンラインセミナーを開催していきます。2020年12月11日に実施した第1回目では、道内スタートアップ企業のロールモデルとなる、国内を代表するスタートアップ企業として、Spiber株式会社取締役兼代表執行役 関山 和秀氏(山形県鶴岡市で起業)が登壇されました。地方都市に位置しつつもグローバルに活躍するSpiber関山氏から、事業の成長に必要な視点や戦略について興味深いお話が伺えましたので、今回はその様子をレポートします。

Spiberが山形県鶴岡市で起業した理由

登壇者
Spiber株式会社 取締役兼代表執行役 関山 和秀 氏

Spiber株式会社
2007年9月に設立した、山形県鶴岡市に位置する慶應義塾大学発のバイオベンチャー。持続可能な社会の発展を目的に、新世代バイオ素材である「ブリュード・プロテイン」の開発に取り組む。植物由来のバイオマスを主な原料とし、Spiber独自の微生物発酵(ブリューイング)プロセスによりつくられるタンパク質素材で、主原料を枯渇資源である石油に頼らず、またマイクロプラスチックや温室効果ガスの排出量などを削減できる可能性を秘めている。現在、タイに量産プラントも建設中。
https://www.spiber.jp/

なぜ山形県鶴岡市なのか。

Spiberは慶應義塾大学発のバイオベンチャーです。山形県鶴岡市に設立された慶應義塾大学先端生命科学研究所という本格的なバイオの研究所があり、その所長である冨田勝教授と出会ったのが高校3年生の時でした。どうしても冨田研究所に入りたく、2002年、慶應義塾大学先端生命科学研究所の2期生として鶴岡市にやってきました。2007年にSpiberを設立し、もう20年間この都市に住んでいます。

Spiberは、クモの糸を実用化しようとしたことからスタートしたのですが、現在はタンパク質を産業的に使いこなすためのインフラを作っています。糸、樹脂、テキスタイル、皮など本当に様々な素材をタンパク質から作ることができるんです。

なぜこの事業をやっているのかというと、私が高校生の時に遡ります。学校の授業で見たルワンダ虐殺のドキュメンタリーを見て、「何故こんなに悲しいことが現代でも起こってしまうのか」ということを考えたのがきっかけです。
争いの原因は、資源だと。限りある資源を奪い合うことが戦争や虐殺につながっていて、それは本当に人類にとって悲劇だと思ったのです。
今、グローバルで見ると人口も増え、資源の消費も増えています。世界の人口比率は新興国の方が多いのですが、資源の消費は先進国が新興国の3倍〜5倍もの量を消費しているといわれています。逆に、今の新興国の資源の消費量が、これから3〜5倍になる可能性があり、そうなったときに資源が足りるのかという課題があります。
まさに私たちSpiberがやろうとしてることは、資源を巡る争いから回避するためのテクノロジーやイノベーションを通じて、その課題を解決していきたいということ。なので私たちの事業は平和維持活動だと思ってるんです。
その中で冨田教授と出会って、冨田教授がたまたま慶應義塾大学先端生命科学研究所を作ることを知り、山形県鶴岡市に来ることになりました。
研究所は豊かな自然に囲まれています。人生の半分以上を山形県鶴岡市でお世話になっているので、第二のふるさとのような感じです。

慶應義塾大学先端生命科学研究所は2001年に設立され、ウェブサイトにもあるように、『当研究所では、最先端のバイオテクノロジーを用いて生体や微生物の細胞活動を網羅的に計測・分析し、コンピュータで解析・シミュレーションして医療や食品発酵などの分野に応用しています。』(http://www.iab.keio.ac.jp/index.htmlより引用)といった、ITとバイオが共同で研究していくという、今でこそ合成生物学の領域は非常にHOTになりますが、当時は新しい取り組みでした。「総合システムバイオロジー」というビジョンを持って立ち上がった、世界でも先駆けの研究所と言えます。

この研究所の成果を元に、6社のベンチャー企業が生まれています。メタボローム解析のリーディングカンパニーであるヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社、その次にSpiber株式会社、株式会社サリバテックなど。このほかにも、テクノロジー系の企業だけではなく、Spiberの元メンバーが設立したYAMAGATA DESIGN株式会社では、田んぼに浮かぶホテルや、子育て支援施設などを運営している企業も誕生しています。

慶應義塾大学先端生命科学研究所があるのは、『鶴岡サイエンスパーク』という場所です。当時周りはほとんどが田んぼでしたが、20年を経て開発が進み、様々な施設が出来ました。2004年にはインキュベーションセンターである『鶴岡市先端産業支援センター』が竣工。Spiberも1部屋お借りするところからスタートし、最終的には17部屋まで借りていましたが人や設備が増えてしまい、最終的にはここを出て隣に会社と工場を建て研究開発を進めています。
Spiberの従業員数は、2020年11月時点で240名を超えました。4分の1が山形県出身の方、1割強が海外出身の方、それ以外が山形県外出身の方となっています。海外出身の方はここ数年増えていて、全世界から人が入ってきていくれている状況で、その人達が言語も含めて安心して子育てができるように、実はSpiber社では事業内保育所も運営しているんです。自分たちで企画して、スタッフもSpiber社員が働いています。入園者の半分くらいが社員の子どもたちで、もちろん地元のお子さんも受け入れていて、自分たちが世の中のためにやれることはことはやっていこうと思っています。

Spiberが取り組むブリュードプロテイン

タンパク質は生物が獲得した究極のサバイバルツール、マテリアルのプラットフォームとも言えます。20種類のアミノ酸がつながっており、並び方や組み合わせのパターンはほぼ無限大です。逆に言えば、無限の組み合わせのパターンの中には、まだ生物が辿り着けていない素晴らしい素材が山のように眠っているはずです。これをものすごい速さで新しい組み合わせを見つけて産業的に利用できるようになれば、安価で環境負荷が低い非常に役に立つ素材になり得るだろうと考えています。
そのために、私たちは基盤技術を開発していますが、タンパク質の生産には微生物を使うというのが重要なポイントです。これを、ブリュードプロテインと呼んでいます。ブリュード(brewed)とは醸造という意味です。

タンパク質はアミノ酸がつながってできているものなので、どういう順番で何個つなぎ合わせるかが書かれた遺伝子を微生物の中に組み込み、素材を作っていきます。なので、私たちが使う原材料はすべて植物由来のもので、効率よく安価に作り出すことができます。これがどのように社会に貢献しているか、SDGSの観点からご紹介させていただきたいと思います。我々が注力しているのは「アパレル」と「輸送機器」です。

まずアパレルに関してです。素材も含めてサステナビリティを考えていないアパレルメーカーやブランドはもはや存在しないと言っても過言ではないと思います。その中でも特にバイオ由来で環境分解ができることがアパレル業界からは求められています。例えば、温室効果ガス排出の大きな要因である大型反芻動物から排出されるメタン。家畜だけで温室効果ガスの6%を排出しているので、材料を作るだけでも地球温暖化に影響を及ぼしています。 
他にも、マイクロプラスチックが年間約50万トンも海に流れているという問題があります。こういったことがアパレル業界ではホットなトピックになっていて、だからこそ海でも分解できるバイオ素材が求められているといった背景があります。
バイオ由来の素材は、動物由来の素材よりも大幅に温室効果ガス排出を抑える可能性がある上、難燃性や吸湿速乾性などの効果を付与することも可能です。アミノ酸の配列の設計など作り方を工夫することによって実現できます。
例えばカシミヤの全生産量は8,000トンぐらいと言われてるんですが、この半分を我々のブリュードプロテインに置き換えると、だいたい日本が年間で排出する温室効果ガスの総排出量の0.16%相当ぐらいを削減できる可能性があると我々は試算しています。
1万トンのブリュードプロテインがフリースに採用されたとすると、これも洗濯排水のマイクロプラスチックの0.1%削減できることになります。なのでもし将来的に10万トン、100万トンと増えていけば、大きな規模の貢献が期待できるようになるということです。

もう一つは輸送機器の分野です。輸送は物凄くエネルギーを使うセクターでして、その中でも自動車が一番大きな温室効果ガスを排出していると言われています。車自体を軽くすれば、自動車から排出される温室効果ガスの量を削減することができると言われています。

例えば1%軽くなると1%燃費が良くなると言われているので、非常に大きな効果が期待できます。その手法の一つとして、炭素繊維強化プラスチックの中に、添加剤としてブリュードプロテインを入れる。当然軽量化にも繋がりますし、かつ材料を減らせるのでコスト低減にもつながります。また、シートクッションに使われるようなポリウレタンフォームも我々の材料を使うことによって、1台の自動車あたり約30キロぐらいは軽量化に貢献できるのではないかと考えています。

鶴岡市にパイロットプラントがありますが、数百トン、数千トン規模で作ることができるプラントは世界を見てもありませんでした。生産拡大に向けた取り組みとして、タイに世界最大級のプラントを建設中で、そこでは年間数100トン生産することができます。数千トン規模で作れるプラントはアメリカで建設予定で、2050年には相当規模作れるようになる予定です。
素晴らしい材料を設計するプラットフォームを作り上げるのは、とにかく大変です。生産に必要な全てのステップにおいて高効率で生産でき、材料としてのパフォーマンスが出るものを設計していく必要があります。それにはすべてのステップのパラメーターの調整と、全てのスコアで良い点数を出せるアミノ酸の設計が必要になります。そのような研究開発ができ、研究者のエキスパートを育てていく環境を整えられている拠点は、世界を見てもこの山形県鶴岡市オンリーワンだと思っています。

鶴岡のサイエンスパークでは、世界最大規模のアミノ酸配列データベースを作り、それを解析して実際に微生物に作らせ評価をし、それを更にデータベースにフィードバックするといった質の高いデータをどんどん蓄積しています。自然界では数万年や数億年の月日がかか
アカデミアとの共同研究もやっていて、科学論文も共同でたくさん発表しています。
これまで、施設から多くのご支援を頂きまして、ようやくバイオマテリアル領域ではトップのポジションに来ることができています。山形県や鶴岡市はもちろん、総産研、公的な研究機関や政府などから多くのサポートをいただいています。多大なる感謝をしております。

20年間でやっとシーズができたので、次の20年は産業に繋げて、実際この地域にも還元していきたいと思っています。
ご清聴ありがとうございました。