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とかち財団×AgVentureLabー新提携が加速させる農業王国イノベーション

日本有数の農業地帯・北海道十勝地区の起業家支援を手掛ける公益財団法人とかち財団(帯広)と、JAグループが運営するスタートアップ支援組織「AgVenture Lab」(東京)が2021年2月12日、食と農業のイノベーションに関する連携協定を締結しました。

オンラインで行われた記念式典では、両団体が人材育成や相互交流など協定のビジョンを発表したほか、J-Startup HOKKAIDO認定企業の株式会社VETELL(帯広、池田哲平代表取締役CEO)が畜産・酪農家と獣医師の共有型電子カルテサービスのローンチを発表しました。小型航空機シェアリングサービスを運営している株式会社エアシェア(帯広、進藤寛也代表取締役CEO)も参加して行われたトークセッションパートも含め、式典の様子をお伝えします。

新提携が放つ「3本の矢」

公益財団法人とかち財団は、十勝の地場企業の食品開発などを支援しており、神奈川県の公益財団法人起業家支援財団と合併した2018年以降はスタートアップ支援にも力を入れています。一方、AgVenture LabはJAグループ全国連8団体が2019年に設立し、「JAアクセラレータープログラム」を通して農業や食、地方創生に関わるスタートアップを支援してきました。JAグループの多種多様なアセットやネットワークを生かし、公益財団法人とかち財団とともに十勝の起業家育成に乗り出します。

「食」「農」「地域」の発展のため次世代に繋がるイノベーションの創出を目指す―。式典冒頭、公益財団法人とかち財団の高橋司氏(写真右下)と、AgVenture Labの篠原裕志氏(同右上)が協定のビジョンを発表しました。協定が目指す三つの具体目標として①若者世代を含めた起業家人材の育成②十勝地区と首都圏の人材交流③公益財団法人とかち財団の拠点「LAND」と東京・大手町にあるAgVenture Labの相互活用ーを進めることを説明。篠原氏は「十勝のスタートアップの皆様に是非AgVenture Labを活用していただければ」と話しました。

続いてJ-Startup HOKKAIDO認定企業でもある十勝地区の2社が登壇。畜産・酪農家向け共有型電子カルテサービスを同日ローンチした株式会社VETELLと、小型航空機シェアリングサービスの株式会社エアシェアが全国の視聴者へピッチを行いました。

牧場経営の新”OS”。共有型カルテで包括支援

池田哲平
株式会社VETELL 代表取締役CEO・獣医師
2009年北海道大学獣医学部卒業。鹿児島県と北海道での勤務医経験を経て、肉牛・乳牛双方の診療/牧場コンサルティングとして独立。全国の畜産・酪農家とその関係者が抱える課題に向き合ってきた。2019年に株式会社VETELL設立。

池田CEOは、産業動物の獣医師として九州と北海道で10年以上働いてきました。牧場コンサルタントとしても全国30件以上の畜産・酪農家に携わる中で、離農や新規就農者の減少といった問題と向き合ったといいます。なぜ担い手確保が進まないのかー。思索を深める中で池田CEOがたどりついた結論は、牧場経営が「見える化」されていない事でした。課題解決を模索するなかで生まれたのがvetellです。

牧場経営の見える化へ、池田CEOが注目したのが牛1頭1頭の管理データでした。従来は飼育員による手書きの台帳などで記録が残され、獣医師の診療データも関係者に共有されることはありませんでした。情報が散逸し、記録の蓄積と活用ができていなかったのです。さらには乳代や飼料代、診療費など牛1頭1頭の収支計算も正確に把握できていませんでした。

池田CEOが開発したvetellは、スマートフォンアプリでの入力が可能な共有型電子カルテです。餌の摂取量や獣医師の診療記録などを統合し、飼料会社や農協にも共有できます。チームとして牛の疾病予防や治療、生産性の高い牧場経営を実現することが可能になるサービスです。

牛の健康のバロメーターとなる餌の摂取量は、何百頭いても数秒で記録が完了し、過去の履歴も含めて簡単にグラフ化できます。薬の投与量が手軽に入力できるほか、餌代や治療経費、販売価格などから牛1頭1頭の個体収支も把握できます。繁殖記録や出荷成績など従来型の牛群管理システムの機能を有するほか、情報の共有先を個別に指定できるなど情報漏洩対策も万全といいます。

利用料は牛1頭当たり月300-400円を想定しており、獣医師や農協など外部利用者は費用がかかりません。既に導入事例もあり、取引先への飼育データの情報開示ができる点も好評を博しています。池田CEOは同日、vetellの一般利用を開始し、全国の農家向けに2ヶ月間の無料体験を提供することを発表しました。現在、同社ホームページで無料体験を受付中とのことです。「日本中の全ての農家に幸せな牛飼いの毎日を提供し、日本の畜産酪農の明るい未来を築いていきたい」と話しました。

小型航空機シェアリングで次世代の空旅を

進藤寛也
株式会社エアシェア 代表取締役CEO
1984年生まれ。31歳の時にプロパイロットが置かれている社会的環境に強い課題を感じ、2016年12月に株式会社エアシェアを設立。全く新しい小型航空機の利用方法であるシェアリングエコノミーを提案している。

エアシェアは、日本で初めて国土交通省から適法性と安全対策が認められた小型航空機のシェアリングサービスです。空を自由に旅行したい利用者と、航空機を貸し出したいオーナー、プロパイロットをウェブ上でマッチングします。旅行者は完全オーダーメイドの遊覧飛行や今まで直接結ぶことができなかった2地点を直線で移動する空の旅が可能になり、航空機オーナーは機体の貸し出し運用が容易になります。また、パイロットは航空会社に所属せずとも仕事が得られます。

エアシェアの利用者は日時やルート、パイロットなどをオーダーし、専用のチャットボックスで打ち合わせをして飛行プランを固めます。登録機体は飛行機8機、ヘリコプター15機などで東北をのぞく全国に配備されています。進藤CEOは、パイロットのアルコールチェックや機内のコロナ対策など安全性向上に取り組んでいることも強調。一般の航空機チャーターに比べて料金が安いことも説明し「エアシェアは現実的な価格で、最も速く自由度の高い手段になっている」とPRしました。

コロナ禍の影響について、進藤CEOは事業の成長スピードが当初計画より5-10年遅れると説明する一方、「海外旅行ができなくなった分の費用が、国内の旅行需要に集中すると考える」との見通しも説明しました。海外旅行一人あたりの平均交通費が12万円ほどであるとした上で「同程度の金額で、エアシェアでは伊豆諸島の自由な旅行ができるようになる」とサービスの優位性を強調。航空法の規制が厳しい有人ドローンに対しても優位性がある話し、「『空飛ぶクルマ』社会の実現をエアシェアを通して推進していきたい」と語りました。

無獣医村にこそvetellを

ピッチ終了後はAgVenture Lab、公益財団法人とかち財団、そして登壇2社によるトークセッションへ。テーマは「地域間連携とイノベーション創出」です。農業王国・十勝の起業熱の高まりへ向け、どのような議論が交わされたのでしょうか。

公益財団法人とかち財団・高橋氏
お二人の事業について伺います。エアシェアの進藤さん、海外旅行需要が国内に変わるというお話を詳しく聞かせてください。

株式会社エアシェア・進藤CEO
日本では経験できない特別な体験を得ることが、海外旅行のニーズでした。それが出来なくなることで、国内旅行はよりディープな需要に変わると考えています。伊豆大島を自由に移動しようと思ったとき、現状では一度東京・調布飛行場に戻らなければ島同士を移動できず、時間がかかってしまいます。ただ、従来料金に2,3万円追加すれば、株式会社エアシェアで全ての島をダイレクトに結べ、時間も有効活用されます。今まで考えられなかったディープな旅行体験が可能になります。

AgVenture Lab・篠原氏
JAアクセラレーターで支援したスタートアップにも、メジャーではない観光地に資源を作り、目的地化しようという動きがありました。これまで行きづらかった場所に向かう手段として小型航空機活用の可能性はあると思います。また、JA厚生連の医師のニーズ、農協観光が手掛ける農泊との連携の可能性もありますね。活用できる余地を探るため協力していきたいです。

株式会社エアシェア・進藤CEO
日本は鉄道インフラが発達していますが、太平洋側から日本海側への移動は難しいです。そういう場所へは、小型航空機での移動に時間のメリットがあると思っています。また、ビジネスで移動する場合には、鉄道で半日かけていたところが1時間半になり、日帰りできるようにもなる。経費や時間の削減になります。このほかコロナ対策という点では、プライベート機を使うことで不特定多数の人混みがなくなり、不安が解消されるはずです。

公益財団法人とかち財団・高橋氏
VETELLの池田さん。vetellは牧場経営者のみならず、農協や獣医のメリットもあるサービスですね。

株式会社VETELL・池田CEO
獣医の目で見ると、疾病予防や治療時に農家がなぜ薬を飲ませたか、どういう治療経過をたどったかなど記録がないのが問題です。vetellを使うことで的確なバックグラウンドを把握して診療できることが、獣医にとって大きな効果です。また、農協や餌会社ともカルテを共有すると、飼料のあげ方や病気の発生対策などの面で、牧場を包括的に支援できるようになります。牧場経営は経験と勘がものをいう世界ですが、新規就農者や代替わりした方が参考にできる記録があったり、外部の専門家に相談できたりと安心感に繋がると思います。このほか農場HACCPやJGAPの認証に向けたデータ提出も容易になります。

AgVenture Lab・篠原氏
vetellは農家は一人でできるものではない、という点を前提においたサービスですね。誰にでも使えるインターフェースに力点を置き、価格の安さも非常に魅力的です。

株式会社VETELL・池田CEO
十勝は大規模農家が多いですが、逆にvetellは関係者が一丸となって地域の農業を支えるという所ほど向いています。地域に数軒の牧場、牛も百数頭ほどしかいないような農協で包括的にご活用いただくようなケースの方が力を発揮しやすいと思います。無獣医村に近い地域でも遠隔サポートが可能なサービスです。そのような課題を感じている地域と、ぜひ一緒にやっていきたいです。

AgVenture Lab・篠原氏
サービスを使えそうな人に伝えたいです。北海道の農業は他地域と違うところもあるので、道外との連携をAgVenture Labとしてサポートしたいです。

遠すぎる投資家と地方の距離、繋げて

公益財団法人とかち財団・高橋氏
進藤さんと池田さんから、とかち財団とAgVenture Labへのご要望はございますか。

株式会社エアシェア・進藤CEO
十勝地方でもベンチャーの機運が高まっていますが、人口が少ない地域でもあり、投資家との距離が遠いです。情報が入らず、熱量を伝えるのも非常に難しいです。投資家に対しての入り口に立つところが大切ですので、ご支援いただきたいです。

株式会社VETELL・池田CEO
進藤さんのご意見に賛同します。また、スタートアップにとっての最大の資金調達は売り上げであり、ユーザー獲得でもあります。ビジネスマッチングのところでAgVenture Labやとかち財団にご紹介いただきたいです。

AgVenture Lab・篠原氏
まず、JA全国8団体とお繋ぎさせていただくことでビジネスを広げられます。また、私どもが運営するJAアクセラレータープログラムもご活用いただけます。支援期間は半年間。過去2回で15社を採択しました。特徴はJAのリソースでPoCを実施できることです。3月末まで募集中の第3期は最大100万円のPoC助成金もあります。投資面では、農林中央金庫がCVCファンドを持っていますので繋げられると思います。十勝のスタートアップの皆様には東京にない感性をお持ちの所が多いと思いますので、ぜひAgVenture Labにぶつけて頂きたいです。

公益財団法人とかち財団・高橋氏
資金調達に関する繋がりは、とかち財団とAgVenture Labそれぞれに異なるネットワークがあります。的確にコーディネートし、事業成長につながるサポートを行っていきたいと思います。