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【2話完結】スタートアップにありがちな失敗って…?後半

今回は、自身もスタートアップに在籍し、現在はOpen Network Lab HOKKAIDOでスタートアップが世に羽ばたくお手伝いをされている山崎清昭さんにお話を伺いました!前半の記事では、スタートアップが陥りがちな失敗談を、創業前のタイミングから追ってご説明いただきました。この後半では、プロダクトを作ってからの失敗談です!

日本で最も陥りがちな失敗は”プロダクト・アウトからのピボット”で起きる?

――「プロダクトを作る前も大事ですが、最終的にこれで行ける!リソースつぎ込んでスケールさせるぞ!というマーケットフィットしているかどうかの判断も難しそうです」

マーケットフィットしているかどうかの判断は、結局、カスタマーのペインを解決できるソリューションになっているか、です。そもそもカスタマーがいるのか、カスタマーのペインが正しいのか、ペインとソリューションが合っているのか、プロダクトがマーケットにフィットしているかどうか、という流れで最終的に見ていきます。プロダクトの前にカスタマーとペインとソリューションのセットで検証でできてれば、大きくはブレませんし、事業として上手くいくはずなので、プロダクトを直していけば良いという話になりますよね。

でも、日本でありがちな失敗は、とりあえずアプリやサービスを作ってみたけど売れなくて困っている、というものです。”とりあえず作る”というのは、最初にカスタマーとペインとソリューションが合っているどうかの検証をしていないということなので、売れるわけがないのです。それで、なぜ売れないんだ?となり、ピボットする。そうすると全部最初からやり直さなければいけなくなりますよね?3年という時間の制約も、初期投資額の制約もある中で闇雲に(ご本人たちは闇雲ではないのでしょうが)進めてしまうと、非常に辛い状況であることは明白です。これは日本のスタートアップの一番の失敗例と言っても過言ではないのではないでしょうか。

カスタマーが存在するの?そのペインは本当にあるの?そのソリューションは正しいの?というところから入り、きちんと論理的に積み上げていけば、そもそも大幅なピボットは必要ありませんし、おそらくプロダクトの見せ方とか、例えばUIも、不具合も、解消できたりすると思います。

なので、ピッチコンテストに出る段階では、もはやここまで検証できている前提なんですよね。ピッチの中で聞いている側が納得感持って聞けるかどうかはとても重要です。そこで、「あったらいいよね」じゃなくて、設定している課題がproblem(=問題、悩み) じゃなくてpain(=痛み)なのかどうか。あったらいいねだったら、なかなかお金を払ってくれないですが、痛みだとお金払いますよね。そこの部分をきちんと調べられたり、自分たちの中で納得感を持って事業をやれているのかどうか。そういう検証がなされているのかどうかのプロダクトなのかを、ピッチでちゃんと伝えられるかですよね。

ぶっちゃけ軌道に乗るまで給料が出ない。その間、どうしてるんですか?

――「あの…ずっと疑問だったのですが、軌道に乗るまでのお給料って出ないこともあるんですよね?その場合みなさんどうしてるんでしょうか…」

プロダクトがある程度作れるようになるまでは、考えるくらいしかやれることがないので、副業的なことをやる方も結構いらっしゃいますね。初期投資・支援する側としては事業に集中して欲しいんですが、それだけやっててもやっぱり食いつなげないですし。

あとは前職までの貯金を食いつぶしていくか…初期段階でエンジェル投資家に知り合えてうまく投資してもらったり、金融公庫の創業者融資制度などである程度の費用は賄えるのですが、何年も無尽蔵に給料として切り崩すのは難しいですよね。給料よりも、どちらかというと開発費に使いたいとか…エンジニアがチームにいない場合は外注費用として使いたいとか…結果、自分たちの給料はすごく低い状態とかよくある話です。大事な資金がどんどん燃えていくのをなるべく抑えるというのは重要ですね。

昨日、とあるスタートアップの人と話したのですが、最初の4年間は共同創業者も含めて給料払えてなかったって言ってましたね。その方々は前職までの貯金を食いつぶしつつ、前職までコンサルの仕事してたので副業しながら過ごしていたそうです。

ルールすらない自由な環境を乗り越える覚悟ができているのか。

――「もしもスタートアップをやるならば、覚悟があるメンバーを集めて、株式の割り振りに傾斜をつけて…と考えると、しっかりと組織立ててやるのが良いのでしょうか?」

そうですね…もちろん事業は合議制では決めらません。かと言って組織ルールを決め過ぎちゃっても上手くいかないんです…。

まず、なぜ合議制で決められないのかと言うと、本当に最後の意思決定をする場で、強い信念を持っている人がいなくなってしまうからなんです。他人同士って、完全に考えていることが全く同じということはあり得ないですよね?それぞれの想いに少しずつ濃淡ができて、揺らいできて、最後は思いもよらない方向に進んでしまっていた、という事態は往々にしてあります。

最初から組織立ってチームを運営しようとすると、それはそれで難しくなってしまいます…。もちろん、一人でやると後々大変になってくるので、なるべくチームの方が良いですし、メンバーがいたほうが苦楽をともにできるので良いといい切れます。ただ、組織論というカタチから入ってしまっても上手くいきません。スタートアップって”ぐちゃぐちゃ”なんです。特に最初の頃は体系だったものが何もないので、全て試行錯誤しながらやっていかなければならない状態です。スタートアップだからこそ”何でもできる”のですが、自由すぎるので逆に”何でもやらなきゃいけない”のです。自由って難しいじゃないですか。ある程度、決められたルールの上でやる自由はやりやすいんですけが、ルールすらないところからやるので、組織論でどうこうできる状態ではないんです。

じゃあどうやって意思決定をしていけばいいのかというと、”これができたら顧客を完全に捕らえられた”とか”これができたら課題が見つかった”とかは、ないっちゃないです。自分たちの試行錯誤のなかで、これなら行けるっていう感触があったか、納得感があるかになるので最後は。これが出たら正解ですとかテストと違ってないので。

なので、最初のチームメンバーが重要ですよね。しばらく…何年という単位でお給料が出なかったとしても、「やらなきゃいけない」と自分の使命としてやっているかどうかが、すごく重要になってくると思うのです。スタートアップにいくとカッコよさそうとか、自由で良さそう、というところではなく、本当にその人と一緒にやりたいか、一緒に世の中変えていきたいか、使命感があるかが、共同創業者としては重要だと思います。逆にそうじゃないと、会社が出口の見えない苦しいときや今月給料払えませんという危機を乗り越えられないと思います。

本当にやりたいの?それが一番大事。

――「山崎さんが考える、スタートアップで一番大事なことってなんでしょうか?」

スタートアップに興味があって、これから事業を起こしたいっていう方の相談を受けることが多くて、そこで一番知りたいのは「本当にそれやりたいのかどうか」ということ。”いま流行っているから”とか”儲かりそうだから”という理由だと、結局つらい局面で止めちゃうんですよね。だから、”本当にそれで世界変えたい”とか、”こう困ってる人たちを助けていくことが自分の使命だ”みたいな状態じゃないとなかなか難しいです。特にいま若い世代で多いのは、「社会的な課題を解決したい」と言う人。想いとしては伝わるんですが、「本当に自分がご飯食っていけなくなるような状態でもやりたいの?それって学生っていう立場だからそうなの?社会人なら仕事始めたけどそっちの仕事があんまり面白くないから逃げてるんじゃないの?」っていうところまでちょっと聞きたくはなるんですよね。

なぜ「本当にやりたいの?」にこだわるかと言うと、初期段階で投資する側の立場としては、シード期ってまだ作っているモノが見えてないので評価しきれないんです。モノにできるかどうか分からないので、その人が信用できるかどうかとか、その想いに共感できるかとか、数値化できない部分で投資を決めるんです。その起業家が5年や10年かけて、上場かM&Aで売却したときに初めてリターンが入ってくるくらい投資の回収に長い時間がかかるのでかるので、まさに、互いに信頼関係が築けるかどうかが、シード段階の投資でとても重要なのです。だから「本当にこれやりたいの?」っていうのは、大事なんですよ。

起業したい人は、どんな訓練をすればいいですか?

――「スタートアップでプロダクトを開発するための思考を訓練する場ってあるんでしょうか?」

Startpu Weekend は訓練としてとても良い機会だと思います。絶対に出たほうがいいですね。自分でアイディアがなくても、カタチにしていくプロセスが3日間で凝縮されているんです。また、メンターや審査員も豪華ですし、札幌はメンターがつきっきりで参加しているので最初から最後までいつでも質問を聞ける環境があります。他の地域と比べると珍しいことです。3日間という短い期間に、小さなピポットも含めて何回も何回もやってるので、その過程がとても重要ですね。

2020年1月に行われたStartup Weekend Sapporo vol.7の様子。6チームが参加し、熱い3日間を過ごした。
山崎清昭
株式会社D2ガレージ コミュニティマネージャー

北海道常呂郡置戸町出身。1995年に北海道工業大学(現:北海道科学大学)大学入学後、普及期直前のインターネットに魅了され中退。エンジニアとして株式会社イエローページに入社。同社がdocomoのiモード開始時に、公式コンテンツプロバイダとしてコンテンツ提供し、開発を担当。以降モバイルコンテンツ業界を中心にエンジニア・企画営業として、KLab株式会社、株式会社コロプラと東京で約15年勤務。
2012年に帰札しフリーランスエンジニアとして様々なプロジェクトに参画。2018年より北海道のスタートアップシーンを支援する、Open Netwrok Lab HOKKAIDO 立ち上げのため現職に。