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北海道のイノベーションをリードする、大学・研究機関のネットワーク「HSFC」とは

2021年、科学技術振興機構「大学発新産業創出プログラム『社会還元加速プログラム(SCORE)大学推進型(拠点都市環境整備型)』」に採択されたことをきっかけに、HSFC(エイチフォース)という、北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク(HOKKAIDO STARTUP FUTURE CREATION)がスタートしました。北海道大学が主幹機関となり、小樽商科大学、室蘭工業大学、公立はこだて未来大学、電子開発学園北海道情報大学、苫小牧工業高等専門学校、公益財団法人北海道科学技術総合振興センターの共同機関6機関と外部協力機関12機関でネットワークを作り、研究活動を通じて生まれるスタートアップを様々な角度から支援していく取り組みです。

今回、HSFCの活動拠点である統合インキュベーション拠点「HX(エイチクロス)」にてXDirector(クロスディレクター)を務めている、北海道大学産学・地域協働推進機構 産学協働マネージャーの千脇 美香さんにお話を伺いました。

千脇 美香
北海道大学 産学・地域協働推進機構 産学協働マネージャー
学生時代は野外で土壌や植物の採取・観察をしていました。その時の楽しさが忘れられず、今でもフィールド研究に興味があります。また、北大CoSTEPでサイエンスコミュニケーションを学び、それを活かして、業務で研究と社会との橋渡しを行っています。現在は、大学発の起業に関する支援業務に関わり、研究とビジネスとの橋渡しを行っています。これからも研究の橋渡しによって、社会に貢献できるように頑張りたいと思います。

北海道に就職したくなるような企業を

ーHSFCは、道内の大学や高専、研究機関と共同の取り組みですが、連携して取り組む事になった背景を教えてください。

そもそも、北海道大学(以下、北大)から生まれたシーズのみが世の中に出ていったとしても、北海道内全ての地域をカバーできるような産業を生み出すことは難しいと考えていました。
さらに、北海道内の大学が皆同じ課題を抱えている背景がありました。その背景とは、卒業後、道内に学生が残らないということ。例えば、北大の工学部だと、約90%は道外に就職してしまいます。北大全体だと、道外から入学してくる学生が約70%で、道外に就職する学生が約70%。どうして道外に就職するのかヒアリングすると、「このまま北海道にいたくても研究開発のできる就職先が少ない」という声が多くありました。
北海道愛があっても残れないという現状を変えていかなければ、なんとかして学生が就職したくなるような企業を作っていかなければと考えています。その1つの手段が、研究開発型のスタートアップ企業や大学発の企業を支援するHSFCです。

ー始めてみて、反応はどうでしたか?

教員の反応は、留学先のラボのボスがスタートアップをしている光景を間近で見ている人が多いので「あれがラボ運営なんだ」というイメージを持っている人が多いです。学生の場合だと「やりたいことがあるけど、どうやったらやれるのかな?」と考えたときに起業という選択肢があることに気づき始めていると感じます。

▲HSFCロゴ

HSFCの4つの事業

ーHSFCでは「1.起業活動支援プログラムの運営」「2.起業家育成プログラムを運営する指導・支援人材の育成」「3.起業環境の整備」「4.プラットフォーム内外のエコシステムの形成」の4つの取組みに力を入れているそうですが、まずは「1.起業活動支援プログラムの運営」について詳しく教えてください。

まずは、GAPファンドの公募を実施し、13件の研究開発案件を採択しました。採択された研究者には、起業家や士業などのメンターを配し、サポート体制を整備しています。今年の2月24日にはDemoDayを実施する予定です。

※GAPファンドとは、起業前の基礎研究から事業化に向けた資金であり、支援対象は主に学生・教員などを想定されているもの(引用元:令和元年度大学等におけるベンチャー創出支援体制の実態に関する調査 調査報告書

※採択された各研究開発課題の概要図はこちら(JSTのウェブサイトに遷移します)

ー博士課程の大学院生から教授まで、様々な研究が採択されていますね。

今回は比較的若い先生が多く採択されていますね。
一般的に研究が成熟すると社会実装や事業化を視野に入れますが、その際に研究室の学生さんがスタートアップとして起業する手段をとることが多くなってきました。今までは大企業との共同研究でしか社会実装の手段がありませんでしたが、東大の取り組みを皮切りに「スタートアップとして起業することを大学としてバックアップしよう」という流れができてきたように思います。自分でお金を集めて起業するのは、研究成果を社会に橋渡しするひとつの形なので、研究者は自分の研究も進め、論文も書き続けています。けっこう大変です。

ーHXにアクセスしてくる研究者のモチベーションはどのようなものでしょうか。

やっぱり先生たちは、自分の研究成果が世に出て使われるのがすごく嬉しいと思う方が多いですね。例えば、薬の研究をしているのにずっと医薬品にならないと、悔しいじゃないですか。「患者さんの”これ”を治したい」と思って研究しているので。なので、薬の場合だと、基礎研究から製品化までの間を研究者自ら橋渡しをするためにスタートアップを選択するということが起こりつつあります。そういった研究者を大学の枠組みを超えて支援する機関がなかったので、HSFCは研究者や研究者と一緒にビジネスをしたい一般の方のための支援機関として存在しています。

ーでは次に「2.起業家育成プログラムを運営する指導・支援人材の育成」について教えてください。

私たちは起業家だけをサポートするのではなく、スタートアップに携わる人たちも一緒に育てていかなければならないと思ったんです。
「指導支援人材育成プログラム」は、週に1回程度、スタートアップ支援をしている方々のお話を聞いていきます。「スタートアップを支援していく上で何が必要か」、「スタートアップエコシステムの中でどんな取り組みをしていけるのか」について、ディスカッションをしています。
次年度は、このプログラムに参加している方たちをネットワーク化し、それぞれの活動のボトルネックをみんなで解決していく仕組みを作っていこうと思っています。

ー「指導支援人材育成プログラム」には、どんな人が参加されているんですか?

大学関係者も多いのですが、弁護士や弁理士、会計士といった士業の先生方や、行政の方といった、スタートアップエコシステムに属する人たちが参加しています。
やはり、札幌・北海道は、東京に比べてスタートアップの絶対数が少ないので経験が積めませんし、支援側も起業したことがないので、いざ支援しようと思ったときに最善の手が打てない可能性があります。
そのため、例えば士業の先生に向けては、東京でスタートアップを支援してきた士業の先生たちから直接お話を聞いて、こういう手法があるとか、この段階でこういう提案をしたほうが良いなどといったレクチャーを受ける機会を提供しています。
加えて、HSFCならではですが、研究開発型に特化しているという特徴があります。先日、VCのレクチャーがありましたが、お話をしてくださった方々は大学の研究シーズに投資経験が豊富な方々です。話を聞いていた大学関係者たちは、自分たちの大学の足りないリソースは何か、何にどうアプローチしていけばいいか、といったことを学んでいました。

ーでは、「3.起業環境の準備」の一環で2021年10月に開設された「広域エリア統合プレインキュベーション拠点HX(エイチクロス)」についてお聞かせください。

HXの役割の1つに、他大学の拠点を結ぶプラットフォームというものがあります。物理的な場所をつくることは非常に意義があると思っています。
「じゃあ普通のコワーキングスペースと何が違うの?」という疑問が浮かぶと思いますが、作りはほぼ一緒です。行っている内容も似たような部分がたくさんありますが、一番の違いは「研究者に出会える」というコンセプトだと思います。
HXは大学の敷地内にありますが、ゲートがなく外から入れる場所にあります。その意図は、研究者だけではなく、スタートアップや支援人材が集まれる場所にしたいと思っているからで、指導支援人材育成プログラムも、北大プロフェッショナルズ相談会もHXで行っていて、関わる人をどんどんネットワーク化しているんです。

▲HXの様子

ーなぜHXを中心にネットワークを作ろうとしているのでしょうか?

私たちが目標としているのは、北海道のいろいろな地域でスタートアップが生まれ、そのスタートアップが北海道の課題を解決できるようになることです。でも、地方に行けば行くほど人材は少なくなります。サポート部隊の人材も地方にたくさんいれば良いのですが、なかなかそれも難しいですよね。オンライン化も一気に進んだので、HXを中心としたサポート部隊をぜひ使ってもらいたいと思っているんです。契約したい、商標をとりたい、といった相談をサポート部隊にどんどん繋ぎ、足りないものをみんなで補い合っていきたいですね。

ー拠点があると、研究シーズにアクセスしたい経営人材やスタートアップ企業もアクセスしやすいですよね。

そうですね。これまで、スタートアップ企業が新たな技術を取り入れたいと思ったときの大学側へのアプローチが分からなかったと思います。なので、例えば「東京のスタートアップが特定の課題に対してこういうシーズを探しています」という相談があれば、私たちXDirectorが北大内や連携している他大学で探して、繋ぐイメージです。

ー他の大学にも繋げることができるのは、すごいことですよね。

ただ実際すごく大変で(笑)。どの先生がどの研究をしているか、どの先生がスタートアップと組みたいと思っているか、などを把握しておかなきゃいけないんです。でも、実践する意義がとても大きいですよね。北大の窓口に行って北大でできなかったらそこでストップしていたものを、HXは他大学まで繋げられますから。

ー最後に「4.プラットフォーム内外のエコシステムの形成」について教えてください。

いまは、北大OB・OG士業ネットワーク「北大プロフェッショナルズ」の運用に注力しています。この「北大プロフェッショナルズ」に参加しているのは、北大OB・OGを中心とした、士業や起業家などをサポートしている方で、東京にいる方も多いんです。札幌の先生たちは若い方が多く「スタートアップを支援したいけど、どうしたらいいのかわからない」という方々が、東京の先生の方々のお話を聞いたりなど、ネットワークを活用しています。
このネットワークを基に、相談会も実施しています。例えば、大学の先生が「自分の経営する会社として商標をとりたいけど、どうしたらいいだろう」という相談だったり、ピッチイベントに出る前にプレゼンの内容をブラッシュアップしたいといった壁打ち的なものだったり、そういった相談を受けられるようにしています。

みんなで支援する環境づくりを

ー今後、HSFCはどんな展開をお考えですか?

まずXDirectorとしては、今年始まったばかりのHSFCの取り組みをより深めていきたいです。例えば、スタートアップに関心のある先生を把握したり、関心度を高める活動をしたり、SCSの枠組みで支援を受けるようなプロジェクトや人材をたくさん輩出していきたいですね。具体的なスタートアップを目指す案件をなるべく多く作り出して、ネットワークに携わるみんなで支援していきたいです。

ーHSFCだけではなく、SCSも含めた多くの機関が連携してスタートアップを支援する必要があるということでしょうか。

お金的な側面で言うと、大学側で支援できる金額はせいぜいエンジェルラウンドくらいまでなんです。その先のステージにスタートアップが進むときに、適切なパスをしてあげたい。大学から1歩出たら、みんなで支援しなくてはならないと思うし、次年度以降、そういった取り組みをしっかり作り上げていきたいなと思っています。

ライター:SCS事務局

岡山ひろみ

札幌出身、大樹町在住の猫を愛するWEBライター。