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【SCS業界研究】アグリテックの可能性を探る

【SCS業界研究】アグリテックの可能性を探る

前回のSCS業界研究では、バイオヘルスケアについて札幌市やノーステック財団、そしてそれらの支援を受けて起業したばかりのスタートアップにお話を伺いました。
第二回目の業界研究のテーマは「アグリテック」!
アグリテックとは、農業(Agriculture)とテクノロジー(Technology)をかけあわせた造語で、農業における課題をテクノロジーで解決していこうというものです。農林水産省は「スマート農業」という言葉を使って、一次産業に携わる方々に広く周知しています。そもそも、農業分野が抱える課題って、どんなものがあるのでしょうか?農林水産省の資料を見てみましょう。

1.担い手の減少、高齢化の進行により労働力不足が深刻な問題
 176万人(2015年)→136万人(2020年)
 うち65歳以上の割合が、64.9%→69.8%
2.農業の現場では、依然として人手に頼る作業や熟練者でなければできない作業が多く、省力化、 人手の確保、負担の軽減が重要な課題
 ・機械化が難しく手作業に頼らざるを得ない危険な作業やきつい作業
 ・農作物の加工や選別など多くの雇用労力に頼る作業
 ・農業者が減少する中、一人あたりの作業面積は拡大
 ・トラクターの操作など熟練者でなければできない作業が多く新規参入が困難

これらを解決するために、ロボットやAIなどの先端技術を活用していくことが社会的に期待されています。北海道、特に国内で最も畑作農業の大規模化が進んでいる十勝地方では、どんな課題があり、アグリテックスタートアップが生まれているのでしょうか。今回、北海道の中でも特に農業が盛んな十勝地方で、スタートアップの創出と育成に力を入れている、とかち財団の髙橋さんにお話を伺いました!

高橋司 プロフィール
公益財団法人とかち財団 総合企画部事業創発支援グループ 課長
1977年帯広生まれ。 埼玉大学教養学部卒業後、印刷デザイン会社での営業・ディレクション、ITベンチャーでのコンテンツ制作・WEBマガジン編集、十勝産食材を使う飲食店での店長などを経て、2012年に十勝にUターン。十勝の食の販路開拓、商品開発のサポート事業に従事し、十勝の農業者や食品事業者とマーケットをつないだ。2017年、とかち財団に入り、事業創発支援に従事。

とかち財団 概要
北海道十勝圏域において、農業を核とした地域産業の振興を支援することにより、地域産業の高度化と複合化を促進し、活力ある地域社会の形成に資することを目的に設立された公益財団法人。農業機械や食品製造機械等の研究開発・技術支援施設「十勝産業振興センター」(財団所有)と食品分析や開発支援等をおこなう「北海道立十勝圏地域食品加工技術センター」(北海道所有で指定管理者)を管理運営。2019年にスタートアップ支援スペース「LAND」を開設し、事業創発支援、産業振興を行っている。
http://www.tokachi-zaidan.jp/

―北海道や十勝は、他の地域に比べて大規模な農業ですよね。特に十勝は、2019年の食料自給率がカロリーベースで1240%にも及んでいますが、担い手の減少は十勝でも問題視されているのですか?

全国と比較すると事業承継がスムーズにいっているところが多く、後継者不足の問題は全国ほどではありません。とは言っても、担い手不足の傾向は、やはりあります。担い手不足と言っても、離農した農家の農地が耕作放棄地になってしまうことが課題ではないんです。十勝に関しては、近隣農家が借りたり買ったりして、農地自体は切れ目なく何かしら生産されている状況です。そのため、離農した農家から土地を譲り受けた農家は、広い面積を耕作しなくちゃいけなくなるのですが、それがすごく大変で。農地は拡大できるけど、一人が対応出来る作業は限られている。収穫適期の作業が困難であったり、繁忙期の忙しさが増大している。そこが課題だと言えます。
一方で酪農に関しても、飼養頭数を増加させることで効率的し、事業の安定化を目指す事業者が多いですが、拡大するにも人手が必要ですし、大規模な投資が必要となります。なので省力化や効率化という点にビジネスチャンスがあると感じています。

―アグリテックスタートアップに対してのサポートはどんなものがあるでしょうか?

アグリテック専用というわけではありませんが、活用できるものとしては、とかち財団が用意している、事業のステージごとに別れている助成金があります。

十勝人チャレンジ支援事業補助金
起業準備段階の事業(シード期)や既存業者における新たなビジネスを社会実装させるため、十勝で地域産業に携わる個人あるいは法人に対し、国内外先進地への調査研究や概念実証(POC)等に必要な経費を補助します。こちらは最大100万円。事例としては、これまで畑作と肉牛をやっていた農家が、譲り受けた離農地にリンゴを植えてシードルをつくる、という挑戦があります。

アーリーステージ事業者支援助成金
十勝管内において、拡大成長を志向し、地域の他産業にも経済波及効果が見込まれるアーリーステージ(成長初期段階)の事業者を支援することで、地域産業の高度化複合化を促進することを目的とした助成金事業です。これは最大300万円。

十勝ものづくり総合支援補助金
十勝地域の産業経済の発展に寄与するため、新たなものづくりの先導的な取り組みや新しい産業を創造する中小企業者等を、研究開発から技術導入、販路開拓までを総合的に支援するほか、将来的な地域課題等を鑑みた戦略的な支援を行っています。

とかち財団の補助金と並行して、北海道経済産業局のサポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)を目指す方も多いです。中小企業・小規模事業者が、大学・公設試等と連携し、ものづくり基盤技術の高度化に繋がる研究開発や事業化の取り組みを最大3年間支援するものです。金額が大きく、単年度あたり4,500万円、3年間の合計で9,750万円が上限のものです。開発コストがかかる事業におすすめです。

―スタートアップがアグリテックに取り組むなら、どんなジャンルがオススメですか?トラクターなどの自動操舵系は大手メーカーがガッツリ参入しているイメージがあり、スタートアップとしては参入しにくいのではないかと思っているのですが…。

十勝は大規模農業が多いです。どれくらい大規模かというと、2020年農林業センサスによると、経営耕地面積は日本平均:一戸あたり2.2haに対して、北海道平均は30.6ha。十勝管内平均は更に広い42ha(2020年十勝総合振興局)くらい大規模なんです。なので生産プロセスの効率化にはかなり伸びしろがあると感じています。特に、自動化や省力化とセンシングなど組み合わせ、プラットフォームとして使えることがポイントではないでしょうか。理想は生産プロセスの重要なポイントにだけ人が入れば作業が終わる、みたいなことです。
トラクター関連や農業ロボットももちろん可能性を秘めています。特にトラクターは自動操舵システム等に大手メーカーが参入していますが、スタートアップには独自のやり方があります。広い圃場を持つ農家にとっては、たくさんのトラクターや作業機を持っているので、全て自動化に対応しようとすると、莫大な費用がかかります。そんなポイントに目をつけた十勝の株式会社農業情報設計社が開発したのは、いわばトラクター版カーナビ。付け替え可能で、しかも安価。無料で利用できるガイダンスシステムのアプリ提供から、より高精度なデバイスの販売もおこなうなど、農業現場に近い場所で、農家の課題解決に取り組んでいます。大手企業が参入している業界でも、スタートアップが戦える余地がありますよね
一方で、国内では収穫ロボットを開発しているスタートアップもいますよね。ただ、特に北海道や十勝の場合は農地の規模が非常に大きいことと、主要農作物の畑作4品(ビート、馬鈴薯、小麦、豆)は収穫の機械化は既に済んでいるため、あまり向いていないかもしれません。
酪農畜産系だと糞尿の処理は大きな課題です。拡大を踏みとどまらせるのが、糞尿の処理。なので、バイオテックという観点で解決できるスタートアップが生まれると面白いですよね。農業とバイオテックの掛け算にも期待したいところです。
それから、これからの農業はデータ駆動型農業が取り入れられていくと感じています。近い将来、小型人工衛星がたくさん打上げられるようになり、地球の観測やデータ取得がバラエティに富んでくると思います。これまでに考えられなかったようなデータが取得できるようになり、それが農業に活かされてくる。同じく十勝の、インターステラテクノロジズ株式会社が子会社として人工衛星事業を展開するOur Stars株式会社を設立しましたよね。もしかしたらOur Starsと連携することで、アグリテックの可能性はさらに広がる可能性がもあると思います。

―十勝でスマート農業に取り組むスタートアップを教えてください

酪農・畜産の生産性向上と効率化に向けてスマート農業を推進している株式会社ファームノートは、アグリテックスタートアップの先駆けだと思います。クラウド牛群管理システムや、人工知能を活用したIoTセンサーなどを提供し、酪農・畜産経営の効率化を進めました。同じく酪農・畜産業界では、株式会社VETELLが畜産・酪農家向け共有電子カルテサービスの提供をスタートしています。
先ほどもご紹介した株式会社農業情報設計社は日本に留まらず海外展開も実施しています。
他にも、農業に活用できる衛星データを提供しているスペースアグリ株式会社、ドローンによる画像解析、フィールドサーバーの運用を研究している合同会社更別プリディクションなど。
フードテック寄りになりますが、帯広畜産大学ベンチャーの株式会社MIJ laboは、画像解析技術を使って肉質評価や、世界初の小型軽量枝肉撮影カメラMIJ-15を用いた枝肉の撮影などを手掛けています。

―とかち財団の取り組みを教えてください。

帯広駅前のスタートアップ支援スペース「LAND」を拠点に、十勝の事業創発を支援しています。アグリテックを進める上で、例えば農家さんや農業生産法人と実証実験したいとか、ユーザーインタビューをしたいといった要望が出てくると思います。ぜひとかち財団に相談していただいて、私達が然るべきところにお繋ぎできればと思っています。
2021年2月に、JAグループが運営するスタートアップ支援組織「AgVenture Lab(アグベンチャーラボ)」と、食と農業のイノベーションに関する連携協定を結びました。十勝の産業振興の力になってくれる全国組織です。連携内容としては、
①若者世代を含めた起業家人材の育成
②十勝地区と首都圏の人材交流
③「LAND」と東京・大手町にあるAgVenture Labの相互活用ーを進める
という3点を目標としています。
アグリテック分野、フードテック分野のスタートアップを支援しているので、力をあわせていきたいと思っています。

―これからアグリテック分野でスタートアップ企業を立ち上げることを検討している方へメッセージをお願いします。

とかち財団のミッションは、十勝管内にある19市町村の産業振興。それに繋がるのであれば、積極的に外部の事業者とも協力していきたいと思っていますし、事業を興そうと思っている方はぜひ相談してほしいです。
例えば、「農家と繋がりがほしい」とか、「大学を紹介して」とか、そういった要望にも答えていきたいと思います。それに、まだ社会実証されていない研究など大学に眠る研究シーズとスタートアップをつなげたり、とにかく十勝はまだ世に出ていない面白いものが生まれてくる可能性があると思っています。ぜひ我々とかち財団を、窓口として使ってください!