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社会への関わり方を考えて、行き着いたのが”株式会社”だった

ビーガンやムスリム、アレルギーを持った人でも食べられるお菓子の製造と販売と、北海道の自然を生かしたVLOG(Video BLOG)を配信するYouTubeチャンネルの、2本柱の事業で会社を経営している株式会社TREASURE IN STOMACH代表取締役社長の柴田愛里沙さん。2017年に、準備期間1ヶ月で会社を設立し、2019年にはOpen Network Lab HOKKAIDO2期生として参画しDemoDayにて特別賞も受賞されています。事業内容は、実際に触れて食べられる有形のお菓子と、画面上で見られる動画という、一見かけ離れたコンテンツのようにも思えますが、そこにスケールの秘密がありました。

思い立ってから1ヶ月で起業!?コネクション0、ミニマムスタートで始める方法。

――元々は会社員として働いていた柴田さん。なんと、起業しようと思い立ってから1ヶ月で起業してしまったそうです!そんな簡単にできちゃうものなんでしょうか?

登記すれば会社を設立できるので1ヶ月くらいで起業してしまいました!ミニマムスタートです。どうしてみんな会社を作るのに、そんなに二の足を踏んでいるんだろう?と思います(笑)。ただ、小さく始めたからには、どうレバレッジを効かせると最大の効果を発揮できるのか、という戦略や戦術は徹底的に考えました

――会社を作りながらいろいろ考えて行動に移して…という感じだったんですね。

起業してから1年間ほどは、広告代理店の下請けで企画を考えるお仕事をしていました。その仕事が結果的に、道内のコネクションを作っていたんです。この1年間があったので、お菓子屋さんを開いてから認知されるまで、時間がかからなかったと思います。会う人に「今は企画書を書いているけれども、来年夢だったお菓子やさんをオープンします。今度はお菓子側で一緒にできませんか」と言い続けると、私を応援してくれる人が徐々に増えてきました。無我夢中で、一生懸命やっていたら、応援してくれる人や知っていてくれる人が増えていったんだと思います。

――どうしてお菓子屋さんを始めたんですか?

大学の勉強から会社員まで、実際に手にとれない無形資産ばかりを扱っていた反動で、有形資産をやりたいと思ったんです。それで小さい頃からの夢だった、多様性やアレルギーという文脈で課題感が強かった食の分野でお菓子屋さんにチャレンジしました。

まず、実際にお店を作って、自分たちが作っているものを食べてもらえる場所を作ることにしました。そのうえでコンテンツを作っていったほうが、コンテンツ自体に深みや説得力が増すのではないかと考えたので。

他にも狙いがあって、買ったお菓子を誰かにプレゼントしたり、誰かと食べたりなど、人と共有し広がっていく流れを作りたかったんです。だから、イートインしかできない飲食店ではなく、お菓子屋さんを選びました。

▲店舗開業時に実施したクラウドファンディングでは、目標の2倍以上の額を集めた。

コンテンツづくりの根底にあるのは、お互いを共感しあえる、今よりちょっと生きやすい世の中を作りたいという思い。

――コンテンツを作るうえで、共感を非常に大事にしているんですね。

「美味しい」の共感体験と、他人を認め尊重する寛容性の拡大が大事だと思っています。

食べないものや、食べられないものがある状態は、人によって理由は様々です。ムスリムなど宗教的な思想が理由な人や、アレルギー等の健康や体質の面で仕方なく選択せざるを得なくなったり。今の日本では、どちらの理由にせよ、あまり一般的とはいえないと思っています。例えば外食時、お店を探すのが大変だったりします。今の社会は、食べられないものがある人にピントがあっていないんです。
その理由は、いわゆる普通の食生活をしている人たちは、「食べないものがある」という状態にある人たちのライフスタイルを知ったり、知るきっかけや共感するきっかけポイントが少ないからですよね。ピントを合わせようがないんだと思います。
なので、お菓子という分かりやすくて、みんなが大好きなものを通して「これグルテンフリーで作ってるけど普通だね」とか「乳製品入ってないけどおいしいね」という体験をしてもらいたいんです。

「美味しいね」と共感しあえるお菓子があると、食べられるものの有無に関わらず、お互いに存在が身近になって寛容になれるはず。一人ひとりが寛容になれば、世の中がもう少し生きやすくなるんじゃないかなと思いました。だから共感を生み出すというのを意識してつくっています。

▲見ただけでは乳製品を使っていないとは思えないケーキ。ココナッツクリームと豆腐でクリームを作っているそう。

――共感に対して非常にこだわりを感じます!どうして共感をキーワードにしたんでしょうか。

ドイツ人の祖父の影響で、幼い頃からビーガンやムスリムの存在が身近でした。ヨーロッパのお店では、「ビーガン専用」とか「グルテンフリー」と記載されている商品が多いのに、日本の学校給食はみんな同じもの食べているのがとても不思議で、違和感がありました。

私もアレルギーを持っていて、友だちに説明するのが大変だったり、一緒に食事をするお店を選ぶのが大変だったり…という経験がありました。食べられないものがたくさんあって、かわいそうね と言われることも多かったです。
でも、私はかわいそうというわけではありません。楽しく暮らしてます。ただ、今の社会がちょっと不便なだけです。

あくまでも、食べられないものがあることに対して、過剰に反応するわけではなく、「普通」が良いと思っています。みんなが変に気を遣わずに、楽しいや美味しいを共感し、結果、それがちょっとしたムーブメントとなって、社会の構造全体が変わっていけばいいな、そんな思いでお菓子を作っています。

共感に重きを置いているのは、2020年2月から始めたYouTubeチャンネル「愛里沙の北海道暮らし」も一緒です。その動画も、「この景色懐かしいよね」「これやってみたいな」などと言った誰しもが持っている心象風景に基づいた共感を大切にしています。

▲北海道の自然を生かした動画が数多く配信されている『愛里沙の北海道暮らし』

多くの人と関わって、社会にインパクトを与えたい。そう考えたら、「株式会社」というスタイルに行き着いた。

――元々独立しようという気持ちがあったんですか?

独立したいという気持ちが強かったわけではありません。「会社の経営者」にあこがれていたわけではないのに起業を選んだのは理由があって、自分のビジョンや思いをスケールさせたり継続的にやっていく手段として、私にとって一番サスティナブル方な法が「株式会社」だったからです。株式会社という形であれば、色んな人を巻き込めます。なので、個人事業主でもなく、合同会社でもなく、株式会社というスタイルを選びました。

――実際に起業してみてどうでしたか?

社長ってすごく難しくて、毎日大変な決断を迫られてて、でもその分リターンも大きくて…というイメージを持っていましたが、やってみたら意外と普通で、楽しいんです。なので、想像よりもやってみたらできた、という感じでしょうか。少なくとも会社員だった頃よりは楽しく過ごしているので、向いているなと思います。

――起業したいなと思っている人にメッセージをお願いします。

起業っていろんなやり方があって、合同会社、個人事業主、株式会社、一般社団法人、NPOとか…自分が世の中とどう関わって、どういう事業の広げ方をしていきたいかによって選べばいいと思うんです。起業したい気持ちがあるのに二の足を踏んでいる人って、目的があるけど手段がわからないとか、自分にできるかなぁとか、そういう不安があると思うんです。なので、一旦まず社会や市場とどういう関わり方をしたいかを考えて、それに合わせてスタイルを決めたらいいと思います。

起業する前に周りに言うと、「あなたには難しいんじゃない?」「その事業だと失敗する」などといったアドバイスをしてくれる人がいます。でも、そのアドバイスはその人の物差しで測られたもの。受け入れるべきかどうかは、判断してから決めてもいいと思うんです。あまり、そういうアドバイスを聞きすぎてしまうと、心が疲れてしまいますから。

それに、悩んでいる時間が一番もったいないです。悩んで、ウジウジして、周りに相談して、デキないよダメだよって言われて、そうか…でもやりたいんだけどな…って思って、というのが一番もったいないです。もしも悩むならば、起業してから悩んだほうがいいと思います!やってから悩むと本気度が伝わって、手を差し伸べてくれる人が多くいるからです。

ちなみに私は、いろいろ言われるのが嫌で、起業するまで一切周りに相談しなかったんですよね。自分を信じて飛び込んでみるのがいいのかなと思います。一番真剣に考えているのは、絶対に自分なのですから、自分を一番信頼しましょう

――今後、どんな事業展開をお考えですか?

YouTubeチャンネル『愛里沙の北海道暮らし』はより多くの人向けに作っていきます。その上で、動画に出てきたことが実際に体験できたり食べられたりする場所を用意したいなと思ってます。

お菓子屋さんの方は、ビーガンの中でも妊婦さんでカフェインとりたくない人など、より細かい層に向けたお菓子作りをしようと思っています。サブスクリプションサービスも、近々始めたいと考えています。

ゆくゆくは、YouTubeとお菓子屋が相乗効果を生み出して、「このYouTubeをやっている会社がこのお菓子やをやってるんだね、だから美味しそうだね」と思ってもらいたいです。YouTubeをみてお菓子のサイトにアクセスした人が、ビーガンやムスリムなど、自分とはちょっと違った食の選択肢があるということを知るきっかけ、そしてお菓子を食べて共感体験を通した寛容性の拡大にも結び付けられたらなと思います。

▲週に1〜2回程の頻度で配信される動画。「都会に住んでいる、癒やされたい人に見てほしい」とのこと。

柴田愛里沙
株式会社TREASURE IN STOMACH CEO/founder

札幌生まれ札幌育ち。29才。高校卒業後に関東の大学へ。その後、都内のIT系広告代理店に入社。24才の時に札幌にUターン、市内のWEBデザイン会社を経て、自身の体験から思い入れの強い「食」とコンテンツ制作を主軸とした株式会社TREASURE IN STOMACHを、札幌に設立。強みは、グルテンフリー/ビーガン/アレルギーなど、食の選択肢に関わらず、どんな分野でもコミュニケーションが取れること。札幌市内で夫と猫と3人暮らし。味噌汁が好き。

issue ウェブサイト
https://issue-sweets-lab.shop/

『愛里沙の北海道暮らし』
https://www.youtube.com/channel/UCZrmGZJ_LkovEtLrooIHcWQ